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徒然のんべんだらり、気の向くまま萌の赴くまま。
二次創作BL中心、腐女子バンザイ乱行三昧。
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創作の小話です。
BL要素のあるものなのでお嫌いな方は、閲覧をご遠慮くださいますよう、お願い致します。

遙かなる時空の中で1&2、地×天、翡翠×幸鷹メインっぽいパラレルです。
全年齢対象だとは思いますが・・・。
(BLの時点で全年齢対象・一般向けではないような気がしないでもないですが)
【 喪失のモザイク 】


「ごめんなさい、幸鷹」

「いいえ。私のこの身一つでこの国の安泰が約束されるのならば、安いものです」

「幸鷹…」

「それに母上、私はこのような身体です。先方は珍しいモノを所望しているのでしょう? それならば、このウィストリアに私以上のモノは他には無いでしょう」

「幸鷹」

声を掠れさせ、穢れた私の身を掻き抱く母をそっと抱き返し、私は改めて心を決める。
私のこの身一つで代替が利くというのだ。
そう、戦で負けた国が勝国に奪われるモノを考えれば、本当に安いものだ。

呪いに蝕まれ、成長しない身体。
この身体が役に立つというのならば、いくらでも利用しよう。
今まで、国の名汚しにしかならなかった私が、役に立つというのなら…。





絹を幾重にも重ねた衣を纏い、髪も何度となく梳ずり。
まるで、嫁ぎに行くかのような身支度に苦笑する。

「幸鷹、準備は整ったか?」

「あ、義兄上…」

「国の面汚しの呪われた身体が役に立つんだ。向こうの王のスキモノ趣味に感謝せねばならんな。せいぜい、飽きられないようにしろよ」

「…言われずとも。国の命運が懸かっているのですから」

蔑むような笑みを向けてくる義兄の横を、足早に擦り抜ける。
舌打ちが耳を打つ音を拾った瞬間、顎を掴み上げられた。

「お前の取り柄はそのお綺麗な顔くらいしかないんだ。先方の王は男色家とも名高いからな、しっかり仕えるがいいさ」

そう言い捨てると、義兄は清々したと言わんばかりの笑みを浮かべ、戸外へと消えていった。
掴まれた顎が、じんと痛んだ。
それと同時に心も。
役立たずなのは誰よりも自分が自覚している。
この身体のせいで母上にはたくさんの辛い思いもさせた。
だから、役に立つというのならば、例えどんな仕打ちが待ち構えていようとも、怯むつもりはない。
義兄に言われるまでもなく、仮に肉奴隷にされることも覚悟の上だった。
呪われた身体を持つ私にとって、それが母上や、優しくしてくれた人達へ出来るたった一つの恩返しなのだから。





馬車に揺られ、いくつかの街や森を抜け。
途中、戦場になったのであろう、荒れ地も越えて勝国タンジールに向かう。
首都に入ると戦勝に沸き返る明るい声がそこかしこから聞こえてくる。
だが反対に私の心は、次第に沈んでいく。
覚悟は決めていたはずなのに、王城が近づくに連れて言いようのない不安が澱のように心に溜まっていく。
気がつけば、すでに玉座の間の扉の前に立たされていた。
聳え立つような扉に、決めていたはずの覚悟が怯む。
だが、ここで退いては祖国を裏切ることになる。
それだけは決してできないと、腹に力を込めて、扉を押した。
軋んだ音をたて開いた扉の向こうは、天井まで届く大きな飾り窓と、その前に玉座が。
逆光になってそこに腰掛ける王の姿は霞んでいたのを幸いに、私は歩を進め、壇下で膝を折った。
沈黙がしばし流れた後、聞き惚れるような甘く低い声が、私の耳を打った。

「君が、ウィストリアの宝かい?」

「え…?」

意外な言葉に弾かれたように顔を上げると。
そこには、艶やかで長い癖のある髪を弄ぶ美しい男が、優雅に微笑み、興味深げに私を見下ろしていた。
その姿に一瞬見惚れ、言葉を失った私に玉座の主は重ねて問いを繰り返した。

「君がウィストリアの呪われた身体の王太子かと聞いているのだよ」

「…そうです」

「証拠は? 太子は御年23を数えると聞いたが、君はどう見ても14、5だ。替え玉かもしれないからね、証拠を見せてくれないかい?」

「王、そのような意地の悪い問い方をしなくても…」

「鷹通、少し黙っておいで。これは王としての命令だよ、宰相殿」

私を試すような物言いを咎めようとした、脇に控えていた優しげな青年を制して、王と呼ばれた男はくすくすと楽しそうに目を細めた。
笑っているのに底の知れない瞳は、時折、冷たく射るように突き刺さる。
この男は、私が気に入る返答を返さねば容赦なく私を切る捨てるだろうと思わせられる視線。
実際、彼はそうするだろう。
そう感じさせる冷たさを、このタンジールの王は放っていた。
私は立ち上がり、一歩前へ進み出る。

「証はこの身体しか持ち合わせていません。ですが、これ以上の証は無いでしょう?」

たった一人、この国に送られて来た私にはこの身体以外、何もない。
だが、この身体は何よりも確かな証であることを証明するように、相手の瞳を真っ直ぐに捕らえる。
そして、帯を解き重ねられた衣を落としていく。
この身体は私にとっても祖国にとっても忌まわしきものだったが、それこそが何よりも確かな証だ。
そう、この身体にくっきりと刻まれた青刺のような呪いの紋様。
余す所なく、全身を埋め尽くすかのように体中に渇いた血のような赤黒色。

「ほう、これは見事だね。まるで一枚の絵のように精緻じゃないか」

「もう、よろしいでしょう? …大丈夫ですか?」

興味を持った風な王の口ぶりに内心、肩を撫で下ろしていると、王の横に控えていた青年が優しく落とした衣を肩にかけてくれ、守るかのように私を抱きしめた。

「非常に目には麗しい光景だが、姫君を怒らせるのは得策ではないね。では、本題に入ろうか?」

「本、題…?」

青年の腕越しに王を見上げると、彼は長い髪を弄びながら私達へと近づいて来た。

「実はね、私には兄がいてね。君にはその兄の元へ行ってもらいたい」

「貴方の兄君の元へ…?」

「兄は何事にも飽きやすい性格でね。何に対してもやる気はないし投げてしまう質でね。そのせいで私も国王などしているのだが」

「私はその兄君の暇潰しの玩具というわけですか」

「有り体に言えばそうなるね。だが君ならあいつも気に入るのじゃないかな? その呪いの身体も、君の聡さも」

にっこりと微笑み、さりげなく私を抱く青年を引きはがし、王は玉座ヘと戻っていく。

「暇潰しに兄はいろいろな呪術の知識も噛っているから、もしかしたら君の呪いを解く方法も知っているかもね」

「…それを聞き出すのも私次第ということですか」

「さぁ、どうだろうね? まぁ、興味が無くなったら捨てられてしまうかもしれないから、気をつけた方がいいかもね」

「……」

「兄の部屋は海の見える南の尖塔の最上階だ。南の塔には案内しよう。塔丸々、あいつの部屋みたいなものだから、塔のどの辺りにいるかは自分で探してごらん」

質問を挟む間も与えず、王はそこまで言うと話は済んだとばかりに、あの底の知れない笑みを浮かべた。
そして、本当に一つの質問さえ許されず、私は玉座の間から放り出され、扉のすぐ側に控えていた衛兵に南の塔に連れていかれた。

「…」

衛兵は終始無言で、私を塔に案内した後もただ無言で礼をして去って行った。
そのことに、本当に私はこのタンジールの中では孤独なのだということを突き付けられたようだった。
この塔に入れば、あとは全て祖国の命運も自分の命も、私の行動次第で決まる。
改めてそのことを胆に命じて、私は入口の扉を押した。



END

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