徒然のんべんだらり、気の向くまま萌の赴くまま。 二次創作BL中心、腐女子バンザイ乱行三昧。 |
BL要素のあるものなのでお嫌いな方は、閲覧をご遠慮くださいますよう、お願い致します。
遙かなる時空の中で2、翡翠×幸鷹でパロディです。
このお話は、川原由美子さん原作『観用少女』を元ネタとしたパロディです。
全年齢対象だとは思いますが・・・。
(BLの時点で全年齢対象・一般向けではないような気がしないでもないですが)
【 観用少年 】
「きっと“彼”は、あの方の心にも潤いをもたらしてくれますわ」
適当に仕事をして、日々不自由なく暮らす程度の収入を得る。
彼にはそれが常の人よりも容易にこなすことが出来た。
それは彼の容姿と、もって生まれた感性によって。
それゆえに、彼はかなり自由気ままに暮らしている。
彼はその暮らしに物足りなさを感じなくもなかったが、十分満足していた。
けれどそんな彼の心には、何とも言いがたい虚ろのようなものが常に存在し続けていた。
「・・・?」
以前出した出版物の印税とやらが少し心細くなってきて、彼、翡翠はしばらくぶりにモデルなどと言う仕事を引き受けた。
そういったビジュアルを売り物にする職業は、得てして時間が昼を越したあたりからはじまるものが多い。
そして、勢い込んで深夜までかかりきり、午前様と言うことも珍しくはない。
だからと言うか、時間が半日ほどずれ込んでしまいがちなのだが。
この日も、昼過ぎから始まった撮影は、ずるずると引き延びて、翡翠が帰途に着いたのは日付を越えてしばらくのころだった。
このくらいの時間になると、すでに明かりはけばけばしいネオン以外はすっかりなりを潜めている時間である。
そんなネオン街をすり抜け、静けさにつつまれた住宅街に足を踏み入れて、翡翠はふと意外な明かりに目を瞠った。
深夜、草木も眠る丑三つ時という時間である。
そんな時間の住宅街に、薄ぼんやりとやわらかな光が灯っている。
興味を引かれてその明かりに近づくと、そこは古めかしい造りのドールショップのようだった。
何故ならば、その明かりの灯ったショーウィンドウには、レースやフリルをふんだんに使ったいかにもと言う感じの服を着せられた少女の人形が飾られていたからだ。
ゆるく閉じられた瞳、ふっくらとした桜色の口唇はまるで生きている子供のようにさえ見えた。
このような精緻な人形を扱っているドールショップがこんなところにあったのかと、ぼんやりと考えながらその少女の人形を眺めていると、ふと、その少女の人形が微笑んだように見えた。
「え?」
「その子がお気に召しまして?」
不意にかけられた声に、翡翠は驚きそちらを振り向く。
すると、ショーウィンドウに飾られた人形によく似た少女がにっこりと微笑んでいた。
どうやら、人形が微笑んだように見えたのは、ウィンドウに映ったこの少女の笑顔が重なって見えたからのようだった。
こんな時間に、ドールショップに明かりが灯っているのも不思議だが、こんな小さな少女がこんなところに立っているのも不思議だった。
翡翠が不思議なことと言うものは、立て続けに起こるものかとぼんやりと考えていると、少女がゆるりと手を差し伸べた。
「ご興味がおありなら、少し中をご覧になって行ってくださいませ」
「・・・いや・・・」
少女の言葉を、翡翠はやんわりと断ろうとした。
美しいものは嫌いではないが、そもそも翡翠には人形を愛でるような趣味はない。
それに、どうもウィンドウに飾ってある人形を伺う限りでは、中の様子も想像に難くない。
そんな少女趣味な空間に、30を超えたような男が一人で入るのは、何となくはばかられたからだ。
しかし―――。
「こちらを見つけられたのは、あなたの星があなたを導いたから。あなたが虚ろを抱えられておられるならば、どうぞ中へ」
少女のその言葉に、翡翠は中へと足を踏み入れた。
「どうぞ、ゆっくりご覧下さいませ」
そう言って、少女は会釈して店の奥へと下がっていった。
翡翠に気を遣わせないようにという彼女なりの配慮のようだ。
店内に通された翡翠は、ぐるりと視線を巡らせた。
ショーウィンドウの中はいかにも少女趣味といったディスプレイだったが、店内は意外にも落ち着いた雰囲気だった。
アンティーク調の調度が配置され、確かに華やかさはあるが、決して嫌味な類のものではない。
人工的な光は好まないのか、そこかしこに配置されたランプが優しげな光を放っている。
そのランプの光に照らされた、いくつもの人形。
西洋人形だけを取り扱っているのかと思いきや、日本人形の類も扱っているようである。
翡翠にはそれが西洋のものか、日本のものかは判別がつかなかったが、服装を見ると洋装だけでなく和装も見受けられたからだ。
だが、それらは皆、一様に瞳を閉じている。
ランプの淡い光のなせる技か、皆眠っているようで、今にも瞳を開き微笑みかけてきそうだと翡翠は思った。
その中の一体に、翡翠は視線を惹きつけられた。
若草の艶を見せる切り髪の、秀麗な顔立ちの人形。
日本の人形だろうか、意匠は違うが神社の宮司などが着るような着物をまとい、人形にしては珍しく、眼鏡をつけている。
薄く開いた瞼の、わずかな隙間から見える瞳は、やわらかな琥珀色のようだった。
その瞳の色を、もっと見てみたいと思った時、先ほどの少女から声をかけられた。
「お茶をお持ちしました。如何ですか?」
「・・・あぁ。いただこう」
人形に伸ばしかけた手を、さりげなく引き戻し、彼女の元へと足を向ける。
手触りのいい布張りのソファに腰を下ろすと、少女が甲斐甲斐しく紅茶を差し出してくれる。
それを受け取り、口に運べば、爽やかな口当たりで、ハーブか何かがブレンドされているようである。
疲れが取れるような、そんな感覚で、穏やかな心地になってくる。
「お気に召しまして?」
にっこりと問いかける少女に、翡翠も緩やかに微笑んだ。
初めは、何故この店に足を踏み入れてしまったのかと疑問に思ったが、彼女の微笑と彼女の差し出す紅茶で、そんな瑣末なことはどうでもよくなった。
たまには、こんな日もあるのだろうと翡翠は思うことにした。
「如何ですか? この子達は」
「ん? そうだね。皆、美しいと思うよ。私のような無頼のものでさえ」
「どの子かお気に召した子がいましたら、お譲りしますわよ」
ころころと鈴のように少女が笑う。
もとより、人形にさしたる興味のない翡翠は、その申し出を断ろうとしたが、ふと先ほどの人形が気になって少女に問いかけた。
「あの人形は、他のとは少し違うのかね?」
「え?」
「他の人形は皆、瞳を閉じているが、あの人形は少し開いているだろう?」
翡翠の指し示す人形を見やって、少女は瞠目した。
翡翠はその様子に、少し困惑する。
自分の店に陳列された人形の様子に驚く少女に、管理不足だったのだろうかといぶかしんだ。
「あなたは、“彼”をご所望なのですか?」
「うん? いや、そういうわけではないのだけれど、気になってね」
「・・・“彼”は一度、主を持ったことがあるのです」
「? 一度、と言うことは、払い下げられたということかい?」
「いえ、そういうわけではないのでございますが・・・」
「では、どういうことだね?」
言葉を濁す少女に、その人形への興味を引かれて、翡翠は言葉を促した。
少し、詰問のようになってしまったが、翡翠はそれに気付かなかった。
それを気付かせたのは、少女の声によく似たもう一つの声だった。
「言葉を選べ。紫が怯えているだろう」
奥から聞こえた声に目を向ければ、そこには少女によく似た少年が不機嫌そうに立っていた。
少年はつかつかと歩み寄ってきて、少女を庇うように翡翠の前に立ちはだかる。
それを宥めるように、紫と呼ばれた少女は首を振る。
そして、翡翠の質問に答えた。
「“彼”は以前、兄君との不和を抱えられ、心に虚ろを宿した方のところに貰われて行った事があるのです。ですが、兄上との不和が解消され、役目を果たした“彼”はこちらに戻ってまいりましたの」
「役目を果たす、ね」
「人形は、人の心の虚ろを埋める道具にございます。その虚ろが大きければ大きいほど、“彼ら”は人に尽くそうとします」
「まるで、生きているような言い方だね」
「人形は、人を癒すため人を模して作られたもの。それが人に尽くすのは当然というものです」
「ほう」
「ですが、人を模した為に、人を慕います。“彼”はまだ、前の主を忘れておりません」
少し痛ましげな瞳を人形に向けて、紫は俯いた。
小さな手が硬く握り合わされている。
まるで祈りでもささげているかのようだった。
「お前は、あの人形を望むのか?」
「兄様」
「紫。人形は人によってしか癒されぬ。あれをいつまでもこのままにしてもおけまい」
「・・・」
「私はあの人形を貰い受けるとはまだ言っていないよ」
二人の会話に取り残されたようになっていた翡翠は、少年の言葉が言外に自分が人形を引き取ることを前提に告げられていることに口を挟んだ。
「お前はあの人形を引き取らねばならぬ。お前にはその責がある」
「そう言われてもね。私があの人形に何かしたとでも? 触れてさえいないというのに」
「・・・お前がここに来て、“彼”が目覚めたからだ」
人形を指差されて、翡翠は目を見開く。
先ほどまでは確かに薄っすらとしか開いていなかった瞳が、半分以上、持ち上がっている。
そのことに、紫も諦めたように一度瞳を閉じた。
「“彼”には時間という癒しを願っておりましたが、あなたがお出でになりました。“彼”をお願いいたします」
丁寧に頭を下げる紫に、翡翠は戸惑う。
これは完全に、引き受ける運びだ。
断るには、少女の必死な瞳と挑むような少年の瞳が邪魔をする。
いつもの翡翠ならば、これしきのことで戸惑ったりなどせずに、すぐさま断っただろう。
だが、何故か今回はすぐに断れなかった。
困惑しながら、翡翠がもう一度人形に目を投じると、一対の琥珀が翡翠を真っ直ぐに見つめていた。
その瞳に魅せられたように、翡翠はその人形を引き取ってしまっていた。
人形を引き取り、店を後にする翡翠を見送る少年と少女。
その表情は、少し複雑そうだった。
それが正しい道であると思い、畳み掛けるように言葉を発した少年だったが、それでも心には不安のようなものがある。
少女が気にしていた以前の主のことである。
かの人形が、その主を過去の主として、新しい主を認めるかどうか。
また、心に傷を残し戻ってくるのではないかと。
言葉は厳しいが、少年は優しい心の持ち主なのだ。
兄のそんな様子に気付いたのか、少女がふわりと微笑んだ。
「きっと大丈夫ですわ。星が導いたのですもの」
「あぁ、そうだな」
「きっと彼ならば、“彼”の心を癒してくださいますわ。“藤”が呼んだ方ですもの」
「・・・“藤”が? そうか・・・」
その言葉を聞いて、少年はふとショーウィンドウへと視線を向けた。
そこには少女によく似た人形が穏やかに微笑んでいる。
その表情を見やって、少年は空へと視線を投げた。
幾億もの星が、都会の光に負けじと瞬いている。
その星の指し示す先を見て、少年と少女はゆっくり微笑んだ。
「きっと“彼”は、あの方の心にも潤いをもたらしてくれますわ」
END
***** あとがき。*****************************************
何か、微妙・・・かな?
漫画で描こうとして挫折しちゃったんだよね。
文にしても微妙だなぁ・・・。
元ネタは『観用少女』なんですが、元ネタにもちゃんと即してないような。
(今現在の文は一発書きなので/汗)